ここ10年の欧州サッカーやUEFAチャンピオンズリーグの歴史はほぼスペイン勢の歴史だと言っても過言ではない。直近の4大会は既にレアル・マドリードとバルセロナが占めており、アトレティコ・マドリードとの同国対決も実現している。
チェルシーとインテルが制覇した年もあるが、これらは大会攻略用の守備的サッカーで実現しており特にチェルシーについては誰も語り継がないだろう。
決勝時の指揮官がディ・マッテオだったことすら誰も覚えていないのではないか。
唯一ハインケスがバイエルン・ミュンヘンを率いて制覇した12-13シーズンだけは語り継がれる要素を持っているが、特にここ数年はスペイン二強が制覇しているイメージが強い。
特にレアル・マドリードの欧州の舞台における復活劇は近年スペインの強さを印象付けている。
レアル・マドリードは今世紀初頭の例のジネディーヌ・ジダンのボレーシュートによる優勝を決めたあの制覇以来国際舞台から遠ざかり、なかなか10冠を意味するラ・デシマの達成が不可能だった時期を経験している。
レアル・マドリードがディ・ステファノやプスカシュが存在したころの歴史的な強さを取り戻したというのが近年の傾向だろう。
更にバルセロナが完全に世界的なチームとして位置づけられるようになったことも大きい。元々バルセロナは今日ほどの地位には無く、歴史的な名門としての価値で言えばACミランのほうがよほど格上だという立ち位置にある。
意外とFCバルセロナというクラブは新興チームであり、サッカーの長い歴史で見れば90年代以降急速に追い上げてきたクラブでもある。
それ以降プレミアリーグ勢が強い時期があったり、セリエA勢が強い時期、そしてドイツのW杯制覇に繋がっていくバイエルンとドルトムントの同国対決などを経て現在では再びスペインの時代になっている。
直近で言えばイタリアのユヴェントスがあと一歩のところでスペイン勢に打ち勝てない試合が存在する。
もはやイングランド勢がまぐれで優勝することすら起こり得ないように感じ、近年むしろプレミアリーグは欧州舞台での弱さを批判され続けている。
この背景には2人の男が存在する。
つまりリオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドの存在だ。
スペイン二強の時代というよりも、メッシとロナウドの時代という側面も存在するのではないか。
必ずしもスペインサッカーの実力だけではなく、メッシとロナウドという個人に支えられているという見方もできる。
もちろんCLだけでなくELの成績を見てもスペイン勢は強く、ワールドカップやユーロにおいてもメッシとロナウドを欠いたスペイン代表が躍進している。前大会ではグループリーグ敗退に終わったが、現在最先端のトレンドとされているフランス代表との直接対決でもフランスホームで圧勝するほどの実力を維持しているのがスペイン代表でもある。
スペインサッカーの育成システムが依然として高い水準にあること、リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドという歴史的名選手の全盛期がちょうど重なったことが10年に渡るスペイン勢の時代を象徴している。
2人とも代表で成績を残していないように見えてロナウドはEUROを制覇し、メッシはコパ・アメリカとワールドカップで準優勝を果たしている。バッジョやクライフと違って、準優勝が美しい悲劇として扱われず物足りないと言われるのがメッシという存在でもある。
今後サッカー史として注目していきたいのが、この2人がいなくなればスペイン二強は世界の二強として強さを維持できるのかということになる。
そもそも論で言えば、まず2人が中々これからも衰えなさそうだと言うところにある。
有象無象のバロンドール候補が登場するが結局この2人に行き着き、「メッシ、ロナウドに次ぐ3人目」は常に移り変わっている。
そんなスペイン勢唯一の弱点が資金力であり、近年バブル状態に入っているプレミアリーグと、新興国のリーグがこのヒエラルキーを覆す可能性がある。
案外今後のサッカー界を左右するのはお金の話になってくるかもしれない。
いつまでも続きそうに見えるスペイン二強の時代なのか、それとも終わる時はお金であっけなく衰退するのか。
まるで「太陽の沈まない国」とまで言われた歴史上のスペイン黄金世紀がいつまでも続きそうに見えて無敵艦隊のイングランド艦隊に対する敗北により終焉に向かって行ったように、プレミアリーグの資金力が彼らの時代を終わらす可能性も否定できない。
リーガ・エスパニョーラは太陽の沈まない国なのか、彼らの地位を虎視眈々と狙う新しいリーグが存在することも事実だ。
しかしいずれにせよメッシとバルセロナ、ロナウドとレアル・マドリードの時代はサッカー史において今後も語り継がれることは間違いないだろう。