elken’s blog

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移民系選手が上手く適応しているサッカーの代表チームはどこ?

サッカーと移民の関係はこのスポーツを語る時には欠かせない重要なテーマである。

サッカーに人種は関係ないと言われるが、歴史においてその国の代表やクラブで活躍してきた移民系選手を上げれば枚挙にいとまがない。

 

今の時代むしろ移民系選手が少ない代表チームのほうが少なく、人種や国籍の定義が曖昧になりつつある時代に自然人類学的な意味での「人種」による統一性をスポーツに求める事はレアケースになって来ている。

 

それでも例えばスペイン代表やイタリア代表は他の欧州代表と比較した場合に移民系選手は少なく、北欧や東欧に行けばよりその"純血度"は高くなる。

また日本代表も近年はいわゆる大和民族系の日本人選手が多く、帰化選手は現在のところ代表にほとんど選ばれていない。

日本代表の名物と言っていいのかはわからないが、ブラジル系の帰化選手が代表のトレードマークだった時代は実際に存在する。

しかし李忠成とハーフナーがワントップのポジションを争っていた時代も過ぎ、現在はドイツ系日本人の酒井高徳が選出されている程度であり国際的に比較した場合自国出身選手の割合が非常に高い。

 

また韓国代表は日本以上に彼らの純血性を求める傾向があり「代表は自国に正当な血統を持つ選手で構成されるべきだ」という考えが根強い。

例えば李忠成は韓国代表の練習に参加したとき、チームの選手から疎外的な言葉をかけられたという。韓国の場合自国内の地域差についても非常に拘る傾向があり、外国人選手の帰化は非常に難しくなっている。かつてソ連時代のウズベキスタン系の選手がキーパーとして帰化する可能性があったががそれも実現することは無かった。

 

逆にアジアで移民系選手が多く在籍しているのはオーストラリアであり人種の多様性が広い。

有名な選手で言えばサモア人にルーツを持つケーヒルが長年代表の顔であり続け、他のメンバーを見てもユーゴスラビア系にルーツを持つ選手が多いことがわかる。

 

欧州に話を戻すならば近年特にフランス代表は移民系選手の台頭によって栄華を極めている。

例えばポール・ポグバはフランス国籍だけでなくギニアの国籍を持ち、エンゴロ・カンテはマリの国籍を持つ。二重国籍が普及している欧州の国においてもはやこれは見慣れた光景だと言える。

イタリア系フランス人のミシェル・プラティニが"将軍"だった頃のフランス代表を第一次移民系選手の隆盛期だとすれば、アルジェリア系フランス人のジダンや西インド諸島にルーツを持つティエリ・アンリがいた頃が第二の黄金期でありフランスサッカーのアカデミー教育は賞賛を集めていた。

そして現在が第三の隆盛期であり、フランス旧植民地系の地域にルーツを持つ選手がむしろ半数以上を占めている。

 

日本人の視点からすれば「アフリカ系の選手が多い」という印象があるが、もはやフランスという国家はアメリカと同様に移民国家になることを選択したためアフリカ系フランス人もその歴史において立派なフランス共和国の構成員となっている。

例えばアメリカのバスケットボール代表を見てアフリカ系アメリカ人の選手が多いことに違和感を持たないように、もはやフランスサッカー代表に黒人系選手が多いことに違和感はない。

その一方でフランス国内ではラグビー代表人気も台頭しており、彼らの中にも一定数は古き良きフランス人像を求める層が存在するようである。

これはアメリカの白人層が白人系選手が主役のポジションで活躍しやすいアメリカンフットボールを好む理由と似ているかもしれない。

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一方でドイツ代表はフランス代表と比較した場合、人種的な割合がやや違っていて日本人がイメージするような伝統的なドイツ人選手の割合は高い傾向にある。

それでもイタリアやスペインに比べると移民系選手が多いのは事実だがいわゆるゲルマン民族系ドイツ人は主力を成している。

またドイツの場合選手層が厚く、仮にゲルマン民族系ドイツ人だけでチームを作った場合でも優勝候補に挙げられるだろう。

これはフランス代表が仮にフランク系やガリア系フランス人(こういった定義が民俗学的に正しいのかはわからないが)だけでチームを作り上げようとした場合実力が数段落ちる事とは対極にある。

 

つまり移民系選手が在籍しているがFIFAの規定が大きく変更された場合でも実力を維持できるドイツ代表と、移民系選手無しでは大きく戦力が下がるフランス代表という違いがある。

ドイツ代表はメスト・エジル、ボアテング、ケディラがチームを離れた場合でも先祖代々までドイツ人だと証明できる出自の選手だけで十分な代表を作れる可能性は高い。

こういった定義を持ち出すこと自体ナンセンスかもしれないが、祖父母の代までフランス人だと証明できるフランス人選手で国際的に活躍している選手はドイツのそれと比較した場合やや少ない印象を受ける。

 

そもそもフランス代表だけでなくフランスの歴史自体、古くから移民とは切っても切れない関係にある。自由、平等、博愛を認めればそれはフランス人だという価値観が彼らにはあるのだ。

移民系選手が多いのはフランスの形そのものだと言っても過言ではなく、それがフランスなのである。

 

しかし同じく植民地を多く保有してきた歴史があり世界政策を行っていたイギリスのイングランド代表はフランスと大きく事情が異なる。

近年イングランド代表は間違いなく過去に比べて移民系の選手が増えているが、彼らが上手く適応しているかと言えば疑問符が付く。

イングランドにおけるフットボールとは庶民や労働者階級のスポーツであり、より"土着"のサッカー文化が存在する。

イングランドが最も成功した1966年のワールドカップ優勝の頃の代表は今の代表以上にイングランド系イングランド人の割合が高かった。

そこまで遡らなくともベッカム、ランパード、ジェラード、スコールズ、ジョン・テリーらの時代にはほとんど移民系選手が見当たらなかった。

 

つまりイングランド代表における移民系選手の存在感が増してきたのはごく最近の事である。そして今の所その新しい時代のイングランド代表が大きな成功をおさめた例は少ない。

しかしここ最近事情は変化しつつあり、例えばアンダー世代のイングランド代表は確実に結果を収めつつある。イングランド代表は変革の最中にあり、今後フランス代表やドイツ代表のように上手く移民系選手が適応していき歴史を作っていく時代になっていくのではないか。

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またオランダ代表の場合は「移民系選手が活躍していた」という過去形になる。

かつてフリットやライカールト、セードルフに代表されるように移民系選手がサッカーの歴史において活躍し始めた最初の成功例がオランダ代表である。そんなオランダ代表が近年は振るわず、更にチームの顔となるような移民系選手の存在も目立たなくなってきている。

オランダ代表と言えば移民系選手というイメージが近年は変わりつつあり、オランダサッカーの一つの時代が終わったことは2018年ロシアワールドカップの欧州予選に敗退したことが証明している。

オランダサッカーの歴史を作ってきたのが移民系選手であることは疑いの余地がない、今後彼らがどう新しい時代に向き合っていくのかは歴史が証明することになるだろう。

 

むしろそういった移民系選手の活躍の代名詞という意味ではベルギー代表にその覇権が映っている。現在ベルギーは最も移民系選手の台頭によって躍進した国であり、飛躍的に実力を向上させることに成功した。本来の国力や競争力を考えれば最も成功している例の一つと考えても良いのではないだろうか。

しかし選手層は充実していても国際的にはまだ大きな成功を収めることができておらず、違う出自にルーツを持つ選手が一つのチームとして活躍するにはまだ時間を要する。

次回のワールドカップやユーロにおける活躍まで判断を待たなければならないのがベルギー代表の現在位置だ。

 

ポルトガル代表もフランスやオランダ程ではないが伝統的に移民系の選手が活躍している。具体例としてはポルトガル代表のレジェンドでありクリスティアーノ・ロナウド登場以前は最多得点記録を持っていたエウゼビオが代表格だ。

ここ最近でもナニ、デコ、ペペなどポルトガルの旧植民地にルーツを持つ選手は多い。

 

しかし同じくイベリア半島でありかつて植民地を保有していたスペイン代表の歴史は、やや他の欧州の事情と異なる。

近年ならばブラジルにルーツがあるマルコス・セナが有名なぐらいで、国内に豊富な選手層を持つスペイン代表は移民系選手に活路を見出してきた歴史がそれほど多くは無い。

スペインの場合はむしろ元から多民族国家であるためカスティージャ、バスク、アンダルシア、カタルーニャなどの連合チームだと考えれば民族の多様性はあるが、例えばアルゼンチン出身のリオネル・メッシがスペイン代表を選択するようなケースは実現した例が少ない。

ダビド・シルバの例は日本で考えれば酒井高徳がいるのようなもので、基本的には今の欧州で最も自国に古くからルーツを持つ選手の割合が高い部類に入る。

 

ここで一旦欧州における代表の違いを整理したい。

 

ドイツ代表:移民系選手は近年増えているが自国に古くからルーツのある選手も数多く、更に代表としても成功している。

フランス代表:移民系選手が最も多く更に成功しているが、自国にルーツを持つ選手が少なく人種によって選ぶスポーツが分かれている。

スペイン代表:移民系選手は非常に少ないが成功している。

イタリア代表:移民系選手が少なく、更に低迷期に入り始めている。

オランダ代表:移民系選手は存在するがかつてほどの存在感は無く低迷し始めている。

イングランド代表:移民系選手が増え始めていることに加え、新しい世代が大きな可能性を秘めている。

ベルギー代表:移民系選手の台頭により近年躍進しているが、まだチームとしての結果には不足している。

ポルトガル代表:移民系選手がは最近少なくなり始めているが代表としては上向きにある。

 

南米地域の代表に関しては移民の定義が非常に難しいので考察が複雑になる。

例えばブラジルやアルゼンチン、コロンビア、チリは間違いなく移民国家であり、自然人類学における人種的な多様性は非常に強い。

しかしそれらの移民はサッカーが近代において地位を築き、ワールドカップという大会が開催される以前の移民である場合が多い。

南米のほとんどの国は確かに移民国家ではあるが移民政策が行われてからかなり時間が経っており、それはワールドカップという大会が作られる以前にまで遡る。

サッカーが近代スポーツとして確立される頃には既に国民や国家として構成されていること南米には多い。1930年に第一回ワールドカップが開催される頃には既にその国のアイデンティティが形成されていた。

 

ただそんな人種混合が基本の南米の国々でもやはり最初は人種でスポーツが決まっていたようである。

例えば元々南米におけるサッカーは白人のスポーツであり、ブラジルではペレが活躍するまではアフリカ系にルーツを持つ選手の活躍の場所は無かったと言われている。ペレ自身もサッカーにおける差別を受けたことがあると告白しており、昔のブラジルではアフリカ系選手がサッカーをすることが難しかった時代がある。

 

ペレが南米におけるアフリカ系選手の歴史や待遇を変えたと言っても過言ではなく、それゆえにもっとも偉大なアスリートの一人として数えられている。

ジーコが台頭する頃にはむしろ「白いペレ」と言われたほどに、ブラジルサッカー代名詞となっていった。そして今では黒人系選手の存在は完全に受け入れられており、数々のレジェンド選手がかつて南米で低い立場として扱われていた有色人種から登場している。

 

似た様な例で言えば元々バスケットボールにおいてもアメリカでは黒人系選手に対しての風当たりが強かった時代がある。

ほとんどの近代スポーツが元々白人のために作られ、白人によって世界に広まったためそこに有色人種が割って入るには時間を要しているケースが多い。

 

一方でアルゼンチン代表は黒人系の選手がこれまで活躍してきた歴史が無い。

なぜならばアルゼンチンは元々近代において白人国家を目指していた時期があり、アフリカ系の選手は国外に移住させられたという歴史があるからだ。南米におけるアフリカ系人種の割合が最も少ない国の一つがアルゼンチンであり、この割合に注目して南米のサッカーを見てみるのも面白いかもしれない。

 

そういった歴史的背景を持つアルゼンチン人には自分たちは白人であるというアイデンティティが今も根強い。そのためそれが人種差別行為を誘発してしまうことがあるのは少し悲しい事であり、これからこういった問題の解決に向かう事を期待したい。

アルゼンチンと南米の最大の違いは黒人選手の有無だと言えそうだが、いずれにせよどちらも元々は移民国家であることに違いは無い。

 

そのため「移民系選手によって成功したサッカーの代表チーム」を上げるのならばブラジルとアルゼンチンが最有力候補になる。

しかしサッカーのワールドカップが開催される頃には既に移民国家だったこの2つの国を挙げることはやや趣旨と異なる。

 

新しく現代に入って移民選手が台頭してきたという定義で考えるならば、やはり欧州の国から選出する方が良いかもしれない。

そう考えると最初の大きな成功例という意味ではオランダ代表、そして現在ではドイツ代表とフランス代表と言えるのではないだろうか。

そしてバランスが取れているという言い方が適切なのかはわからないが、古くから自国にルーツを持つ選手新世代の移民系選手の両方を上手く育成することができ、それが社会の広域に置いて受け入れられている意味ではドイツ代表が現代における最大の成功例だと言える。

 

ただし移民系選手のみの質の高さを見ればフランス代表の軍配が上がるだろう。

これはアフリカに植民地を多く保有していたフランスが有利な事が作用している。

ドイツ代表の場合どちらかと言えば旧植民地出身者というよりも戦後の移住労働者にルーツを持つ選手が多い。例えばトルコ人とポーランド人は現在のドイツ社会、とりわけサッカーにおいて大きな役割を担っている。

戦後西ドイツにおけるライン川の奇跡と呼ばれることもある高度経済成長期にトルコから多くの移住労働者がやってきた歴史があり、その世代の子孫が例えばメスト・エジルやイルカイ・ギュンドアンのような選手である。

 

また移民系選手について考察するならばその出自がスポーツに与える影響も考えなければならない。

例えばイギリスにはパキスタン系の移民が多く、音楽グループOne Directionにかつて在籍していたゼインはパキスタン系イギリス人である。

しかしイングランドフットボール界においてパキスタン系やインド系の選手はほとんど見当たらない。これはパキスタンやインドのような南アジアに置いてはクリケットが盛んであり、彼らがサッカーとはあまり縁がないことも関係している。

今後もしかしたらドイツ代表におけるトルコ系選手のように、イングランド代表においてパキスタン系選手が登場する可能性はもちろん否定できない。 

 

それがイギリスや世界の移民社会にどのような影響を与えるのか、そういった領域にまで思考を及ばせていくとやはりサッカーにはスポーツの領域には留まらない多様な要素が存在することがわかる。 

そしてサッカーというスポーツそのものがそのように多様ならば、必然的に代表というカテゴリーにおいても多様性が発生することになる。

今後サッカーと移民の関係における多様性はどのような方向に向かっていくのか、そういった角度でこのスポーツについて考えていくことも一つの楽しみなのではないだろうか。