8月31日、夏の最終日に行われた日本代表とオーストラリアの一戦は2-0の勝利によって、無事にワールドカップ出場を決める事ができた。
正直な感想を述べるのであれば、こんな嬉しい勝利は久しぶりだというぐらいに爽快感がある試合を見せてくれた日本代表のセクシーサンキューと感謝したい。
本当にこれは理想的な形の勝利で、これで一気に日本サッカーが上向くムードになっていく可能性は高い。
ここ最近明るいことが無く前回のイラク戦でも出場を決めることができず、「ワールドカップに出場できない」という可能性さえ指摘されていた。
今では日韓戦プレーオフすら覚悟していたことすら懐かしくなるぐらいに爽快感ある試合が見れて、日本代表を応援している人は今頃最高の気分になっているのではないだろうか。
サッカーの意味が何なのかと言われれば盛り上がることが全てと言っても過言ではなく、元気がない人がこれで嬉しくなったり世の中が明るいムードになっていったりすればそれで最高な事なんじゃないかなと自分は思う。
「日本代表が出場できなくても細々とサッカーを楽しみたい」と過去に書いていたけど、いざ決まるとやっぱり嬉しいし決まり方が良いと爽快感がある。
斜に構えて見ようと思っていた部分もあるが、これだけかっこよく決まると素直に嬉しい。
面白いのが前回同様にホームのオーストラリア戦で決まったという事に加えて、更にザックジャパンが引き分けで決めたことに対して今回は2-0という理想的な勝ち方をして井手口陽介や浅野拓磨のような新世代のスターも現れている。
松木安太郎のノリでいえば「これ来るんじゃないですか」と言わずにはいられない程ポジティブで、ここで初めてザッケローニ体制を超克した印象も抱く。
これまでのハリルホジッチ監督に対する評価は散々でこの試合負ければ解任の可能性すらあった。
「ハリルさんごめんなさい」と言わなければならない人は大勢いるのではないだろうかといぐらいにこれまでのハリルジャパンはグダグダだった。
ハリルホジッチの凄いところは重要な試合にものすごく強いということであり、サウジアラビア戦に続き今回絶対に落とせないオーストラリア戦で勝利している。
逆に前回の深夜放送アウェーのイラク戦で勝っていたとしても特に注目もされずに盛り上がらずに終わっていた可能性もある。
それが今回ホームで劇的に勝利して、ここしかないというタイミングで理想的にワールドカップを出場してカリスマのように演説した姿を見て「持ってる男」という印象さえ抱いた。
ヴァヒド・ハリルホジッチという人物は旧ユーゴスラビア出身であり、ユーゴのカリスマといえばもちろんヨシップ・チトーである。
林修「ヨシップ・チトーをご存じない?米ソ冷戦において東西陣営の双方に属さず第三世界の概念を提唱し、複数の名前を持っていたカリスマ的指導者は間違いなく教科書でもっと取り上げるべき偉人ですよ。」
リアルタイムにチトーを見ていた人というのは、今回のハリルホジッチに似た印象さえ覚えていたのではないかとさえ空想せずにはいられない程、勝利後の演説はカリスマ懸っていた。
パルチザンを率いてドイツに対するで闘争で勝利したチトーを見ていた当時の大衆は同じような感覚を抱いていたはずだ。自分は逆張りで一貫してどれだけ叩かれようがハリルホジッチを擁護してきたが、今回の勝利で確信した人もいるのではないだろうか、彼なら信頼できるという事に。
メンバー選考も迷走して、本戦で慌てふためいて大敗北を喫したムッソリーニの国から来たザッケローニはポイーで、やはりチトーの国から来たハリルホジッチなのである。
どうしてもこれまでアジアだけでなく強豪国相手にも華麗なサッカーを見せ期待できるチームを作り上げたザッケローニは高く評価され、それに対して面白くないサッカーをするハリルホジッチは批判されてきた。
今回ようやく「ザックへの幻想」のようなものから逃れることができたサポーターも多いのではないだろうか。
ザックジャパン時代に比べて日本代表人気も露骨に落ち込み、ハリルが過小評価されてきた背景にはそういった事情が存在する。
ザッケローニがわさびが好きだとか日本人の国民性は素晴らしく第二の母国だというようなことを言ってそれで喜んでいた人も大勢いたし自分もかつてはそうだった。
逆にハリルはJリーグを見ていないとか、日本へのリップサービスが少なく無愛想だとか、そういう「人間として親近感があるかどうか」で監督の資質を評価してきた側面が無いとは言い切れない。
人間的にザッケローニがいくら素晴らしい人だとしても、それは逆に優しすぎたという事でもあり、選手の増長を誘発する要因になり最終的にはブラジルワールドカップにおける崩壊に繋がってしまった。
逆にハリルホジッチは選手を駒として見ているようなタイプであるがゆえに、メンバーを固定せず世代交代も進めることに成功した。
遠藤保仁を最初の時点で構想から除外し、今回も本田圭佑や香川真司を起用しなかったという手腕は評価されるべきだろう。
感情的な理由で一喜一憂してハリルの手腕を批判してきた人を見ると、日本サッカーがまだ未熟だという事も感じずにはいられなかった部分がある。
彼なりの論理性は間違いなくなり、まるで何も考えていないような監督であるかのような批判がされていた姿を見るとただ情緒的に批判したかっただけとも見ることができる。ユーゴスラビア出身者が経験したことや考えていることは日本人が想像し共感することが難しい領域にあるのは事実だ。
同じ旧ユーゴ出身者のイビチャ・オシムに対して「日本はどうですか?」というリップサービスを求めたような質問を何度もあしらわれているが、そういった質問に快く日本を賞賛していたザッケローニが人間的に好まれていたことに情緒性は間違いなく存在する。
監督が知性のある話をしていることに関心を持たず、日本が好きなのかどうかで見る姿勢というのはそろそろ終わりにしなければいけない部分もあるだろう。
トルシエや岡田武史、オシム、そして遥か遡ればクラマーを見ても実はこういった監督の方が日本人に向いている可能性が高いということも考える必要があるかもしれない。
監督の国籍で判断するというわけではないが、ブラジル出身のジーコ、イタリア出身のザッケローニ、メキシコ出身のアギーレのようにラテン系の監督が実は日本代表に向いていない法則があるのではないか。
アギーレは特殊な解任理由だが、いずれにせよ体育教師タイプ、部活動顧問タイプのほうが向いている可能性はある。仮にアジア人を下に見ているようなタイプの監督であったとしてもその人が日本代表を勝たせれば正義で、どれだけ日本文化に溶け込んでも負ければ意味がない。
日本代表サポーターが欲しいのは「ワサビ美味しいです」と語ることではなくワールドカップでの結果だ。
ザッケローニ「これ以上ワタシを叩くのはヤメテクダサーイ」
とにかく今回の一番のMVPはハリルホジッチであり、これで少しハリルへの評価も変わっていくことに期待したい。
そしてもちろん今回のこの爽快感ある勝利の立役者は選手たちでもある。
やはり誰もが井手口陽介の活躍には度肝を抜かれたはずだ。
なぜ彼が今までスタメンではなかったのか、そして彼をやたら推していたガンバ大阪サポーターの言葉は間違いではなかった。
ガンバサポーターが「井手口凄いぞ」と何度も口にする光景は見てきたが、まさかこれほど凄かったとは思わなかった。
まず驚いたのがロングボールやセンタリングが上手い事であり、前半から非常に狙いの良いボールを供給していた。
Jリーグでの活躍ではミドルシュートのイメージがあったがロングボール全般上手い上に、タフな役割もこなすことができるというのはまさに日本代表が必要としていた選手だと言える。
「サイドプレーヤーの浅野拓磨よりよほどクロス上手いな」と思いながら見ていたら、後半はまるでレジスタのように攻撃を演出し始めて驚愕させられた。更にカットインからのミドルシュートのゴールを見て万能ミッドフィルダーだという印象すら抱かずにはいられなかった。
これで21歳だというのだから更に驚きであり「圭さん、真さん、ここは俺でしょ」と本田圭佑や香川真司からポジションを獲得しても不思議ではない。
派手な髪色に染めもはや金髪枠すら本田圭佑から奪っていきそうな勢いであり、ボクサー風のいでたち、そして喋り方と顔つきは中田英寿を彷彿とさせる。
更に中田英寿に似ているという意見は自分だけでなく多くの人が感じているらしい。
そしてやはり先制ゴールを決めた浅野拓磨も「謎の大舞台での得点力」という才能を示し大きく活躍した。
実は自分は試合の前半まで「サイドプレーヤーとしては物足りない、別の選手を探してくるべき」だとさえ考えていたがゴールを決めた瞬間に手のひら返しをすることになる。
自分が試合中に手のひら返しをする人間ならば、彼は試合中に成長する人間だった。後半は本当にイキイキし始め、勢いに乗り覚醒し始めたことには驚いた。サイドプレーヤーに重要な素質なのだがいい意味で"イキり"はじめたことは非常に高く評価したい。突き抜けて、打開して突破しようという意欲を感じ取ることができ後半は見違えるようにサイドからオーストラリア代表相手に脅威となっていた。
スポーツ漫画やバトル漫画で「アイツ、戦いの中で成長しているだと!?」というシーンがあるが、今回の浅野は本当に試合中に成長していた。
そして今回得点はなかったものの大迫勇也の活躍はやはり特筆するべきだろう。
半端無いトラップ、半端無いポストプレー、半端無いシュート意識など見るべき要素が非常に多かった。
普段ブンデスリーガの試合を見ていると当たり前にチームに溶け込んでいるためむしろその凄さに気付きにくいが、日本代表に来ると本当に半端無いことに気付く。
2,3回ほどエグいトラップがあり、それがあまりにも自然すぎたため気付いていない人の方がむしろ多いのではないか。更に後ろからオーストラリアの選手にものすごく押されて普通の日本人選手なら倒れていてもおかしくないシーンで何食わぬ顔でポストプレーをしたことにも驚愕させられた。
更に今回左サイドに入った乾貴士との連携力も非常に高く、乾との相性の良さは今後醸成していけば大きな武器になるのではないか。
「半端無いトラップコンビ」として非常に見ごたえがある組み合わせだ。
今回の4-3-3のスリートップは乾貴士、大迫勇也、浅野拓磨だが似ている人物を上げればそれぞれHey! Say! JUMPの薮宏太、ユーチューバーのはじめしゃちょー、ロンブー淳に見えなくもない。ジャニーズ、ユーチューバー、お笑い芸人のスリートップはもしかしたら本戦でもこの組み合わせで決まる可能性を秘めている。
その3人をボクサー風の井手口陽介、顔だけダビド・シルバ風味の山口蛍、そして佐藤ありさの夫という中盤が支えるという組み合わせは非常に面白い。
ディフェンス陣については今回のオーストラリア戦、何と言っても酒井宏樹がさすがマルセイユのスタメンだという能力の高さを見せつけた。
決定的なクリアに関わり得点の可能性さえあった空中戦の圧倒的な強さ、サイドプレーヤーを生かそうという利他的な連携力、更に自身の推進力とセンタリングの質は非常に高く、もはやワールドクラスのサイドバックと言っても過言ではない。
浅野とのコンビネーションを極めれば強豪国に通用する突破力を実現できるはずだ。
最近ドイツ2部に移籍した内田篤人は『嵐しやがれ』に出演したとき「もう一度あの景色を見たい」と代表復帰への意欲を見せていたが、マルセイユ酒井からポジションを奪い取ることは非常に難しいと言わざるを得ない。
長友佑都は「なんだかんだで生き残る能力」を代表においても発揮し、気づけばまた出場しており今回アシストまで決めている。
問題は吉田麻也と昌子源のセンターバックであり、ヒヤりとさせられるシーンがいくつかあり「やらかし未遂」がいくつかあった。
吉田麻也は間違いなくアジア人史上最高のセンターバックではあるが、なぜか日本代表ではやらかす癖がある。また昌子源はレアル・マドリードの選手を抑えるポテンシャルがある事は間違いないがもう少し安定感を求めたい。
10回ボール奪取しても1回抜かれれば批判される難しいポジションではあるが、センターバックにはやや厳しめの要求を要求をし続けることも代表サポーターの役目だろう。
センターバックというのはそういうポジションであり、最も責任感が問われる場所でもある。
そしてサッカーというのはもちろん自チームだけが全てではなく相手があって存在する。やはり何と言っても「まだケーヒル出てくるのかよ」という事であり、途中から出場してきたときはやはり恐怖を感じさせた。
日本サッカーファン三大トラウマ選手の一人であり、『おどるポンポコリン』の替え歌を作るならば「ケーヒルおじさん登場 いつだって忘れない ドログバも怖い人 そんなの常識♪」ということはこれからも語り継いでいかなければならない。
もういい加減あのシャドーボクシングは見たくなかったが今回は無事見ずに済んだ。いっそのこと今回ゴールを決めた井手口陽介が引き継いでみても面白いかもしれない。
そんなケーヒルと交代した選手が「トム・ロギッチ」という選手だが、自分はこの23番をつけた選手に非常に惹かれた。
フィジカル面で非常に大きい体格をしていて目についたが、独特なリズムでドリブルをし左足から良質なクロスも供給していた。名前を見れば気付くが彼は旧ユーゴスラビアのセルビアにルーツを持つ選手であり、元々フットサルのオーストラリア代表に選ばれていた経緯もあるようだ。旧ユーゴ出身という出自、そしてフットサル経験者という背景が彼の独特なボールタッチを支えている。
???「セルティック所属で左利きのテクニシャン、ロギッチくん大正解」
サッカー面以外の見応えと言えば、今回ハリルホジッチが主審にボールの保有者について講義する一面は面白く乱闘騒動に発展するような雰囲気さえあった。
アフリカ予選を戦い旧ユーゴ内戦を知っている監督からしてみれば実は後半における時間の使い方を考えた演技であることは想像がつくが、そういった情熱的な姿を見ているとやはり本戦における指揮に期待せずにはいられない。
そしてさりげなく本田圭佑がその抗議に加わっていたシーンは彼の今回唯一の存在感を発揮するシーンだったと言える。
槙野智章と並んでベンチで観戦する姿がもはや代表戦の見どころの一つとなっており、今回2ゴールしたというのは彼らが目でアシストしたおかげなのではないだろうか。
仮に井手口が「本田の金髪枠」を後継したのであれば、槙野は「本田の友達枠」を長友から譲ることに成功した。
もちろん2人にもピッチ上でその能力を見せてもらいたいが、ここにきてワールドカップ本戦におけるスターティングメンバー争いも熾烈になってきたことは喜ばしい事だと言える。
サッカーは何が起こるかわからないという事を改めて感じさせられた最終予選のオーストラリア戦だった。
ロシアワールドカップまで後1年、ついに本戦進出を決定づけることができた日本代表やが最後の年をどう過ごすかに期待したい。