サッカーとは言うまでもなくスピードが重要なスポーツであり足が速い事はサッカーにおけるもっとも重要な才能の1つだ。
特にウィングやサイドアタッカーのポジションは現代の高速化するサッカーの中で特にスピードが求められ陸上選手並みの速さを持つ選手も多い。サッカーはもはや20年前に比べて圧倒的にアスリート化の時代になっている。
しかし自分は何でもスピードスピードと考えるサッカーの議論に少し疑問を抱かざるを得ない。スピードにも種類が多くありそのスピードもいかにして使うかが大事で、スピードだけでも駄目なのがサッカーの世界だ。
もし単純なスピードだけで選手が判断されて育成段階において誤った判断が下されたり、選手自身のトレーニングでも過度なスピード重視になりプレースタイルがよくない方向の変貌してしまうならばそれはいいことだとは言えない。
まず大前提として考えなければならないのはサッカーは陸上競技ではないという事だ。
100m走でもなければ42kmを走るマラソンでもない。
よく冗談で運動会の種目で5m走と言われるがサッカーの世界ではこの5m走も大事だし20m走も重要になってくる。100mという明確に決められた距離を決められた時間にスタートする競技ではないのだ。
アルゼンチンでプレー経験のある亘崇詞はこういった。
「サッカーはフライングが許されるスポーツ」
100m走では絶対に敵わない相手にでも、1秒早くスタートしてそれが10m走であったならば勝つことができるのがサッカーの魅力だ。足の速さだけですべてが決まってしまうわけではない。
そこにどのような駆け引きをするかが大事だし「どこに走るか」という事も駆け引きや判断の1つだ。そのあとどのようなファーストタッチやトラップをすることも重要だし、ドリブル状態ならばドリブルスピードという事も重要になってくる。
例えばFCバルセロナで活躍するリオネル・メッシはこの部分が非常に優れている。
100m走やトップスピードであればメッシより早い選手はいくらでも存在する。しかし100m走のタイムを競う競技ではないのがサッカーだ。メッシはその圧倒的な加速力やボールコントロールしながらでもスピードが落ちない技術の高さを駆使して世界最高の選手になった。陸上競技が世界で最も人気のスポーツで、メッシが陸上を選んでいたらメッシは無名だっただろう。しかしサッカーというスポーツはシンプルに走ること以外の能力が数多く求められ応用がいくらでも可能だったのだ。
スペースのない密集地帯でボールを持ったまま走ったときメッシより早い選手はいない。高い加速力を兼ね備え、その加速でもボールを好きなところにおける技術がある。加速力だけが高くても最初のタッチが荒ければその効果は半減するが、その圧倒的な加速の中でもボールを繊細に扱える技術があるのでフルパワーで加速できるのがメッシだ。
更に彼は駆け引きの面でも非常に優れている。
加速力が高く、「フライング」をしてなおかつボール保持状態でもスピードが落ちない、その複合がメッシのドリブルを支えている。だから世界の名だたるディフェンダーが追い付けずに抜かれてしまう。
さらに仮に追い付かれたとしてもそこからキープする能力や抜く技術とアイデアがあるのもメッシの強みだ。
100m走のタイムを伸ばすことには限界がある。
そこに拘ることよりもペナルティエリア内での2,3mの加速力に特化したことで日本最高のフォワードに上り詰めた選手もいる。
そう岡崎慎司だ。
岡崎慎司は陸上トレーナーと共に徹底的にペナルティエリア内の2,3mの加速に拘ったトレーニングをした。まさにサッカーに必要なスピードに特化したのが岡崎のスタイルだ。スピードにもいろいろな種類があってその中からより実用的なスピードを選ぶことで岡崎慎司は競争に勝ってきた。
単純な100m走の速さだけで判断すれば岡崎はそれほどすぐれていないがペナルティエリア内では爆発的な速さを持っている。
単にトップスピードだけが高くても意味はなく100m走のタイムでは勝てない選手にも、3mや30m走の工夫次第では勝つことができるのがサッカーだ。
育成段階でも本当に実用的なスピードを見極めなければならないしその部分を重点的に鍛えていく必要がある。スピードという能力をより細分化し区別して考える必要が今の日本サッカーには求められるのではないだろうか。