現在韓国のアイドルで流行を席巻していると言えば女性グループではTWICE、そして男性グループでは防弾少年団だ。
自分は良く書店で雑誌コーナーを見ることが多いのだが、そこにおいてあったK-POP関連の雑誌を1年ほど前に読んだ時「防弾少年団」というグループ名を見かけた。
その時は不思議な名前だなと思ったことを覚えている。
そしてこれほど人気が高まることは全く予想していなかった。中には東方神起を超えたという意見もあるほどでその人気の勢い派すさまじい。
韓国と言えばこういった漢字でのグループ名が多く、東方神起、大国男児、超新星、神話など独特な名前が多い。
日本のジャニーズで言えば「嵐」がその筆頭だが、アルファベットだけではなく自国の言葉に拘る姿勢は韓国は凄く強く感じる。
街の看板などを見ても日本ほどアルファベット表記は多く見かけず、外国人観光客が多い都会であってもハングルで書かれている事が非常に多い。
その中でも防弾少年団は更に不思議な名前をしている。
意味は10代や20代に対しての社会の抑圧を防ぎ、自分たちの音楽スタイルを弾き出していく物らしく、「東方の神が起こる」という意味の東方神起のように近い。
アルファベットの音楽グループ名が多くなりつつある今、漢字でもカッコイイというのはアジアのグループにとっては今後のトレンドになっていくかもしれない。
そしてそのアジアのグループとして防弾少年団は今新しい壁を越えつつある。
これまでのK-POPグループとの違いは、日本やアジアだけでなく欧米で受けているというところにあり、かつてイギリス出身のビートルズが世界の音楽シーンを席巻したことに例えられてさえいる。
また近年ではONE DIRECTIONのように若い男性グループがアイドル的に世界で人気が出始めている。これは「ブリティッシュ・インヴェイジョン」(=イギリスの進出)として音楽用語の一つになっているが、おそらく韓国の芸能界はイギリスのやり方を参考にしているのではないだろうか。
韓国の内需市場は日本やアメリカに比べると小さいためどうしても海外戦略を考えなければならない事情がある。
これはジャニーズが海外進出をしない理由と正反対であり、日本の場合はジャニーズが国内で十分にやって行けるため日本に特化しているが韓国の音楽グループは海外に進出していく必要がある。
またジャニーズとの違いは国内市場に対する考え方だけではなく音楽性にも反映されている。
防弾少年団は「ヒップホップグループ」という立場を取っており、これが欧米で受けている最大の理由の一つでもある。
K-POPは言葉がわからなくてもダンスや響きで外国人にも分かるように作られているので、韓国語という決して話者数が多いとは言えない言語であっても海外でヒットするような仕組みがある。
世界の流行に合わせている事、そして言葉がわからなくても聞けるように作られている事がジャニーズとの大きな違いになっている。
またBTSへの評価では「ダンスが揃っているのがかっこいい」という意見が多く、これはTWICEにも同じことが言える。日本のアイドル文化も最近は顔やキャラクターだけではなく、K-POPの影響でダンスが評価されるようになって来ている。これは日本のグループのレベルが高まるきっかけにもなるので決して悪い事ではない。
更に防弾少年団のファン層は主に女性に集中しているので男性から見ると他人事のように聞こえるが、東洋人に対する偏見や人種差別がなくなるきっかけになるという大きな意味もある。
欧米社会を見るとまだアジア人に対する偏見や差別は残っており、スポーツを見ると野球でもサッカーでも釣り目ジェスチャーが問題になることが非常に多い。
そういった現実を見ているとまだアジア人が直面する課題が多いことに気付く、そしてそれは虚通している課題でもある。
だからこそ防弾少年団きっかけでアジア人に対する見方が変わるのであれば、それは日本人にとってもマイナスにはならない。
韓国のグループが欧米で成功していることは、同じアジア人の立場としてむしろ歓迎することですらあるので自分は批判しようとは思わない。
例えば黒人音楽をきっかけにアメリカでアフリカ系アメリカ人の地位が向上したように、音楽は時として人種の壁を超える大きな力を持つことがある。
ブルース・リーやジャッキー・チェンが映画によってアジア人への偏見を変え、日本のアニメやゲームもアジアの文化が受け入れられる入口になってきた。
次はヒップホップという音楽を舞台にして防弾少年団やK-POPが欧米社会で地位を築こうとしている。21世紀はアジアの時代とも言われているので、これは歴史を象徴する出来事の一つかもしれない。
半世紀前には世界の音楽の舞台でアジア人が主役になることは考えられなかった。
それはビートルズやレッド・ツェッペリンのように白人の物であり、その後黒人音楽のラップやヒップホップなどが受け入れられるようになっていったが、アジアの音楽はサブカルチャーの領域を出ることは無かった。
日本で言えば坂本九の『上を向いて歩こう』や、韓国ではPSYの『カンナムスタイル』のように特定の曲がヒットすることはあっても、一つのジャンルとして確立され続けるまでには至らなかった。
日本のジャニーズもかつては韓国でも人気が高かったが、あくまでアジア圏内のみに受け入れられる文化に留まっていたため、こういったアイドル文化はアジア限定の物だった側面がある。
アジアの音楽はアジア内で完結するというのがこれまでの基本的な傾向であったのは一つの事実だろう。
防弾少年団が今後どこまで世界で勢いを伸ばしていくかはわからない。
しかしアジア人の音楽文化がアジア圏以外でもかっこいいクールな物として受け入れられつつあることは、今後のアジア文化の在り方に影響をもたらす可能性が高い。
かつてビートルズがイギリスの音楽が世界に通用することを示したように、防弾少年団もこれまでにはなかった流行の始まりになっていくかもしれない。