ソビエト連邦が開発した自動拳銃の代表格と言えばまさにトカレフTT33になる。
日本にも密輸されアウトロー集団が使う拳銃としても知られており、公安や自衛隊の所有する拳銃を除けば日本で最も流通している拳銃がトカレフだ。その非合法性や安全装置が削除されていることから「危険な拳銃」としてのイメージが非常に強い。
世界中の共産圏や東側諸国、そして発展途上国でもシンプルな構造によって量産され世界中のありとあらゆるところに流通している。銃規制の厳しい日本ですら流通しているのだからその生命力たるや恐ろしい物がある。
ちなみに日本に流通しているトカレフはほとんどが中国製でありこちらは安全装置がしっかりとついている。本家ソ連製より中国製の方が安全というのだから驚きである。技術力がまだ乏しかったころの中国でも容易に製造でき、北朝鮮やユーゴスラビアはおろかパキスタンまでも製造している。パキスタン製のトカレフはもはやグリップの大きさが設計にくらべて巨大化しており高度な生産設備や工作機械を保持していない国でもありあわせの物で製造できるような簡易構造になっている。それほど簡単に作れたのがトカレフ拳銃である。
まさにそういった無骨な鉄の塊としての魅力があり、その漆黒の姿が非常に渋くかっこいい。ストッピングパワー面としてはマイナスだが貫通力が高いこともこの銃の特性であり防弾チョッキをも貫くことがあるとして恐れられている。
この銃が製造されたのは1930年代のソ連であり、グリップの紋章にあるCCCP(エエスエスエール)という物がその陣営を象徴している。まさにガチガチの革命時代のソ連が作ったのがこの銃であり、1953年まで製造された。まさにヨシフ・スターリン時代を駆け抜けた拳銃であり、スターリンの拳銃と言っても過言ではない。T34やIS重戦車と同じ激動の時代を駆け抜けたのがこの拳銃である。
国民統合と歴史学: スターリン期ソ連における『国民史』論争 (学術叢書)
独ソ戦ではそのシンプルな構造が武器になりドイツ製のワルサーなどの精密な拳銃が作動しないような極限の状況でも作動した。まさにこの大雑把感や使えたらいい感、そしてとにかく作りまくれと言う発想がこの銃には表れている。
シンプルで量産性が高いことが戦争という局面においては大きなメリットになる、その重要性をこのトカレフTT33という拳銃は示している。
まさにAK47の拳銃版といってもいいのがトカレフでありAK47のよりいち早く登場している。当然カラシニコフ氏もこのトカレフをしっているわけでありもしかしたらAK47の設計思想の源流はトカレフにあるのかもしれない。いずれにせよソ連らしい銃であり、悪役めいた銃でもある。
これほど悪役っぽい拳銃も存在せず、悪役好きにとってはそのかっこよさがたまらない。アウトロー集団という魅力もあるし、ガチガチの革命時代やスターリン時代のソ連軍将校やソ連兵がこの銃でいろいろやっていたという事もまた怪しげな魅力がある。シベリアの強制収容所を監視するソ連将校もこの銃を持っていたに違いないし、カティンの森事件などでもこの銃は使われたはずだ。
1930年代から1950年代までソ連軍に使われ、その後は世界中の共産主義国家やアウトロー組織に流通し始める。
そのためとにかく良いイメージがほとんどない。悪いイメージやどす黒い暗いイメージに汚れている。更に見た目もその悪役感を強化している。明らかに西側や先進国が使いそうなデザインではなくどこか怖い印象を与える雰囲気がある。
しかしそれがまさに魅力。クリーンな拳銃にはない悪役感がかっこいい。悪い武器、悪役の装備する武器、そういった要素がトカレフをトカレフ足らしめている。
とことんまでいいイメージに恵まれない不遇の拳銃だがそれ故にかっこよくもある。トカレフの魅力はこれからもそういった悪いイメージと共にあるだろう。