厨二病なら誰もが通る道、アニメキャラに憧れてチェスを始める行為。
自分もまさにこの道を通りチェスを始めたことがある。
好きな駒はビショップ、相手のクイーンを奪ったときが好き。
そのきっかけがコードギアスのルルーシュ。動機はアニメからだったが結構真剣にチェスへの情熱を持ちちゃんとやろうとしてた時期もあった。結構高い海外製の木製チェスセットも買ったり戦術本も買ったりしたしチェスブログを毎日読んでた。それからオンライン対戦も当然した。今はなくなったけどヤフーチェスもしてたし、chess.comという海外の有名チェス対戦サイトに入り浸っていた。チェスコムは対戦相手の国籍が見えるのでアメリカ人、フランス人、ドイツ人、フィリピン人、中国人などとも戦ってきた。
そしてこう聞くとまるで非常に強かったかのように見えてくるけど実態は違った。
はい、滅茶苦茶弱かったです。
そもそも自分は将棋のルールとか知らないレベルでやったこともなくて初めてまともにやった頭脳系ボードゲームがチェスだった。オセロぐらいしかやったことなかったからまるで頭を使ってゲームをする勝手が掴めず、日本ではチェスについての本やサイトが少なく周りにもやってる人がいないので強くなる環境そのものがなかった。だからオンライン対戦でもあまり勝てずにモチベーションが続かず、最後は才能の無さを自覚してやめたのである。
英語のサイトは充実しているから英語のサイトで学べばよかったけども当時の自分にそこまでの努力はできなかった。アメリカにチェスの研究書がないからロシア語を学んで独学したボビー・フィッシャーのような情熱は自分にはなかったのである。
更に言えば自分はそもそも頭が悪かった。
痛いことに当時の自分は頭がいい頭脳キャラだと思っていた。これは典型的なパターンだけども小学時代一時成績が良かったことで勘違いして俺は頭脳キャラだ!と勘違いするパターンだったのである。完全に痛い少年がそこにはいた=昔の俺
そんな中学時代の自分は当然成績が下がりアニメに没頭していく。
自分は頭がいい、いざという時やればできると思い込んだままアニメを見て現実逃避していたのである。そんな時に出会ったのが『コードギアス反逆のルルーシュ』というアニメだった。当時のギアスブームはすさまじくいわば厨二病にとってカリスマのようなアニメだった。コードギアスというアニメを大まかに言うと世界の3分の1を支配する神聖ブリタニア帝国という国があって、その巨大な帝国にギアスという特殊能力を手に入れた高校生が挑むという話である。もうこの文章だけで伝わってくる圧倒的厨二病感。ルルーシュはそのブリタニアの皇子であり非常に頭がよく戦略に長けていて、なおかつイケメンである。そしてありふれた主人公と違っていわばダークヒーローのような存在でありエグい言動やかっこいいセリフが多いキャラだった。
そしてそのコードギアスの作中で主人公ルルーシュが得意だったゲームがまさにチェスだったのである。
俺は憧れた
その日からルルーシュ・ヴィ・ブリタニアになるという謎の特訓が始まった。
頭脳戦に勝とうと思ったらまずはチェスだ。俺はチェスをやって世界一になる。調べてみるとグランドマスターというチェス界の階級があることを知った。そしてカスパロフというアゼルバイジャン人がめちゃくちゃ強いことを知った。カスパロフの自伝的な著書も買った。よし、俺はグランドマスターになる!ドンッ
周りの奴らが海賊王に憧れてる頃、自分がルルーシュやグランドマスターに憧れていることに優越感を感じていた。もはや完全なる黒歴史である。
「勉強?知るかそんなもの、チェスで頭脳を鍛えればその内頭もよくなって数学とか楽勝になるだろ。今は頭脳を成長させる時なんだ、10代の時に頭を使えば生涯通じる頭脳が手に入る!国語力だってこのカスパロフの難解な著書読めば最強じゃん、先生は本を読めばいいって言いてたしな!」そう俺は信じていた。当時の世界観で言えば自分は頭脳キャラであり、生まれ持った頭脳の才能がある、そしてそれが開花すればルルーシュになれると本気で信じていたのだから。
そして俺はパソコンで毎日のように帰ってからチェスの対戦をしガルリ・カスパロフの本を読み、レーティングの上位に入ることを夢見て海外の大会で優勝して世界チャンピョンになることを夢見ていた。
世界各国の歴代のチェス選手についても調べた。
ホビー・フィッシャー、アリョーヒン、ボリス・スパスキー、コルチノイ、クラムニク、カルポフ、そしてカパブランカ
特にキューバのチェス選手カパブランカは幼少期に一瞬でチェスをマスターした神童。華麗なチェスを指すことで有名で憧れていた。
そしてレーティング1200台を維持することがやっとの精一杯の当時の自分はその歴代名選手の棋譜を見て悦に浸っていた。本当は一切理解できていない、しかし自分は「何か高次元のものを見ている」と思い込みながらその過去の対極データを見て悦に浸っていたのである。言うまでもなくコーヒーを飲みながら。まさにガチ厨二病行為。
「チェスは世界で行われているワールドスポーツだ、将棋とは違う。だからチェスやってる俺偉い」そう思いながらチェスをやっていた。しかし実際にやっていたことは非常にしょぼい低レベルな事だった。
しかも当時の自分が重要視していたのは結局チェスの中身ではなく雰囲気だった。海外のチェス大会の雰囲気を想像したり、パリやモスクワの郊外で朝に珈琲でも飲みながら優雅にチェスを指すという雰囲気に憧れていたりした。将来はオサレな部屋を作ってそこでチェスを誰かと対局する、そんな妄想をしていた。有名な選手の画像を調べたり、チェスの画像を調べたり、チェスが登場する映画を見たりしてモチベーションを高めたりしていた。
そしていつか頭脳最強キャラとなった自分はルルーシュのように世界を変える、そんな痛い妄想ばかりしていた。
そしてそんなことにうつつを抜かしてるうちに月日が好きた。人間いつか夢から覚めて悟るのである
気づいたのだ。
「俺って頭良くない、才能ない、ボードゲーム系は特に駄目」
人間向いてる向いてないがある、明らかに自分は向いてなかったしそもそも年齢的に間に合わなかった。本当に世界のトップクラスの人間は10歳未満の頃からみっちりやっていてその頃から大人を倒してる。まるで先天的にその能力があるかのように自然とできてしまうし、IQだって150を軽く上回る。目隠しした状態でチェスなんて当たり前、30人と同時に対戦して1人相手の1手を数秒で判断して次のもう1人に映っていく。過去の対極も丸暗記してるし、途中のチェスも一瞬見ただけで状況を判断する。コードギアス1話でやってるように絶対劣勢の状況からキングを動かしてチェックメイトまで持っていく。
そんな人間離れした能力があるのがトップレベルの人間だったし才能を持っている人間だった。自分は頭が悪いことを自覚しチェスに向いてないことを受け入れた。
人間そうやっていろんな能力がないことを受け入れていく必要がある、そしてその中で自分ができることはなんなのかと模索していかなければならないのだと自分は気づかされた。
でもそれを気づかせてくれたという意味で自分はチェスをした経験は良かったと思っている。なんだかんだ言ってその頃が懐かしいし、黒歴史だと思っていても自分の中では大切な思い出だと思ってる。あの頃に戻れたとしてもきっと自分はまたチェスをするだろうなと思う。