先日サッカーのイラク代表と日本代表の試合が行われた。この試合はワールドカップアジア最終予選の試合であり、仮に負ければ勝ち点を競うオーストラリア、サウジアラビアに並ばれ一気に混戦に陥ってしまう危険な状況だった。
結果的に見れば引き分けにより勝ち点1を積み重ねわずかな差で首位を維持することになりワールドカップ出場に近づいた。
試合の途中までは中東アウェーの試合で得た勝ち点3を持ち帰る気でいたのだから不満は残るが、冷静に考えれば敗戦せず勝ち点1を持ちかえることができたことの意味は大きい。
試合内容に関して言えば余程のサッカーファンでもない限り見る必要もなく結果だけ知ればいいようなつまらない試合だったと言える。
中東アウェー環境で華麗にゲームを支配し攻撃的にゴールを量産するような試合ではなく試合中ストレスを抱えながら見る時間の方が明らかに多い試合だった。
一言で言えばグダグダした展開であり、上手くいかないことが多かった。
ただ「これもサッカー」という視点で見るならば非常に面白い試合であり、サッカーではこういう理不尽なこともある。こういう上手くいかないストレスのたまるモヤモヤしたい試合を楽しめるようになるとサッカーは一段と面白くなる。
内容も悪く得られそうだった結果すら最後の所で得られずに終わる。これほど面白くもなく不満の溜まる試合は無いが、逆にその面白くなさが面白い。この現実の理不尽さがサッカーの世界には凝縮されている。
まず酷暑の日中、アウェーの快適ではない環境でけが人続出の状況で試合をしたらこうなってしかるべきであり、持てる戦力の中でやれることはやった。結果論ではあるがスタメン自体はこれで正解だったと思うし、理不尽と言えば理不尽なゴールがなければ勝ち点3を持って帰り絶賛されていたような試合だった。
勝ち点が1-1で終わるか1-0で終わるかでこれだけ評価が違う。
特に原口元気と本田圭佑は自分の中ではマンオブザマッチと言える存在であり、原口は中央の高いインテンシティの中で懸命にあらゆる局面に顔をだし、本田圭佑は90分間重要な選手として戦えることを証明した。
まさにハリル監督の志向する「デュエル」の申し子であり、このチームから外すことができない理由がわかる。
そしてフル出場が可能なスタミナがないのではないかと指摘されていた本田圭佑はその疑問をはねのけた。アウェーの快適ではない試合やワールドカップ本戦で強豪国相手の試合を想定した場合やはり本田圭佑は必要になる。仮にこの試合本田圭佑の場所にアリエン・ロッベンやガレス・ベイルが入ったとしてもそれほど目立った活躍はできなかっただろう。それぐらい今回厳しい状況で何とか起点を作っていたし1点目のアシストを記録している。
上手くいかない試合の中でこの2人の選手は特に存在感を見せていた。
原口にしても本田にしてもいくつかミスをするシーンはあったが、サッカーはミスがつきものでありワールドクラスの選手でもミスはいくらでもする。全てを完璧にこなす選手など存在しない。
中東酷暑アウェーで楽しくない試合をしていればそういったミスが出ることもある。上手くいっているプレーについては語らないのに、ミスした局面だけ論う人々がいるが全体的に見た場合原口と本田はこの試合明らかに他の選手に比べてよかった。
ただ誰が悪いかという試合でもなく、サッカーはこういうことになってしまうことが往々にしてある。大迫勇也は点を決めたもののそれほど活躍はできなかったし今乗りに乗ってる久保裕也が特に何もすることがなく終わってしまう。
かといって新しく入った守備的中盤の2人も悪くなかった。
特に遠藤航には少し前の試合でも酷評されたにもかかわらず再びチャンスを与えた。誰が悪いかと言われれば明確に悪い選手はおらず、高いインテンシティの中で懸命に1つ1つの局面を戦っていた。
ただでさえ酷暑の中で荒くプレーして来るイラク代表相手にデュエルし続けることはできていた。その甲斐もありハリル監督の言うように相手にほとんどチャンスを与えることは無かった。
しかし時としてサッカーには理不尽なことが起きてしまう。
「何が起きたのかわからない」と放心状態で語る指揮官のように、なぜこんなことが起きてしまったのかとこの試合を見た人は思っているだろう。
ミスが1つ、2つ重なるだけでいつの間にか失点してしまうことがあるのがサッカーであり、1つのミス自体は小さくともそれが大きな意味を持ってしまうことがある。
ただこの試合は非常に良い教訓になったのではないだろうか。
むしろここ簡単に勝つよりも、最後の最後で失点してしまったこと、そこから追いつけなかったことというのはワールドカップ本戦でも想定される事態であり最終予選終盤に一度こういう惜しい試合をしておくべきだった。
イラク代表がワールドカップ出場の可能性が潰えたにもかかわらずまさかここまで激しくきたことは本戦のよい想定になった。アフリカの国とこういった試合をして1-0で勝ち点3を獲得するようなことが組み合わせ次第では必要になってくる。
自分は一貫してハリルジャパンを擁護しているがこういった過程がグダグダの代表でも本戦勝つことが何より大事だと考えている。ハリル監督が目指しているのはこういったデュエルを積み重ねる試合であり本戦勝てるチームを想定して作り上げている最中にある。
ワールドカップは仁義なき勝ち点の「奪い合い」であり、イラク代表がまるででワールドカップ本戦のように挑んてきたことはいい教訓になった。
負けようが勝とうがもうどうでもいい状況でやる気などすでになくなっている思っていたイラク代表が、この地味なスタジアムで酷暑の中ここまで高いインテンシティで試合を挑んできた。
そんな彼ら相手に途中まで勝ち点3を勝ち取れそうだったのに1つのチャンスで追いつかれて得られるはずだった勝ち点を失ってしまった。
こういう悔やむに悔やみきれない試合を経験したことは本戦で戦う為に必要なメンタル要素にも大きく影響する。
中東アウェーの酷暑の中決して楽しいとは言えない試合をして懸命に走り懸命にフィジカル的な争いを行い続けてそれでも勝ち点3は持って帰れると考えていたらそうはいかなかった。
このがっかり感や喪失感、徒労感が非常に大事であり「いくら頑張ってもあんなことで決まってしまうのか」ということを実感したことで、今後より細部を極める意識も高くなる。
かつて岡田武史は「サッカーは細部に宿る」と語っていたが、こういったレベルの試合ではそういったわずかなことが命運を分ける。
先日のCL決勝も片方のチームには半ば不運にも似たことが起きてしまい優勝を逃し、逆に言えば幸運もあったチームが勝利を手にした。
その時ゴールキーパーは「あらゆる逆境や不運すら跳ね除ける力がないとこういう試合は難しい」と反省を繰り返した。
サッカーは華麗な試合ばかりではなく、上手くいかないことの方が多い。
今回のようなうまく行かない試合も今後確実に存在するだろう。まだ残された最終予選、そしてその先にある本戦には、こういったなかなかうまく行かない試合を1点差で決めなければならない試合が待ち受けている。
グダグダながらも取れるはずだった試合が、その結果すら伴わずに終わる。
そんな虚しい展開を最終予選の終盤に経験したことで選手、そして監督はこの差を生み出した要因が何かを反省する。
最終予選突破を考えれば凶、本戦で勝つことを考えれば吉、それがこの試合の率直な印象である。