ブラジル代表のネイマールがバルセロナを去ってからという物のテロは起きる、後継者は見つからないという散々な状況に陥っているのがカタルーニャの州都だ。
コウチーニョに関しては三度目のオファーも断られ、ドイツメディアからバルセロナがデンベレにボイコットを支持したのではないかというあらぬ陰謀論まで噴出している。
そんな中バルセロナから移籍したネイマールJRが"口撃"においてハードワークしている。
「バルサを出てからかつてないほどイキイキしているんだ」
「バルサのフロントはその場所にいるべき人たちじゃない」
まるで某野球選手の「出る喜び」を彷彿とさせるような発言を繰り返しており、かつての職場の悪口を繰り返している。
そんな思いでプレーしていたのかと思うとバルセロニスタとしては残念であり、シャビ・エルナンデスも「選手がバルセロナに残りたいと思わないのは奇妙なことだ」とさっそくいつものように反論している。
ただネイマールは「バルセロナというクラブにあのようなフロントは相応しくない」というニュアンスで発言しており、上層部の腐敗を批判しているという意味合いが強い。
実際"のび太"の愛称を持つ現会長のバルメトウに対してバルセロナのサポーターも不満を持っており、選手たちも同様の思いを抱えていることは否めないのも事実だろう。
今回のPSGとの交渉においてもマルコ・ヴェラッティを強引に獲得しようとしたことが発端ではないかとの見方もされており、リヴァプールとの交渉でも行き詰まっている。
もしかしたら最近まで栄光を味わっていたがゆえに「我々は大正義バルセロナだ」という傲慢な姿勢があったのかもしれない。時代は強大な資金力を背景にした新興リーグや金満クラブの時代に移っており、バルセロナやレアル・マドリードでさえかつてのようなスタンスでは対抗できなくなっている。
時代への適応を誤ればフットボールの世界では坂を転げ落ちるように落ちぶれていくと言う事は他のクラブがすでに証明している。
今回のネイマール退団騒動に関して単に裏切り者だと感情的に批判してしまえば問題の背後にある本質的な原因を見誤ってしまうだろう。
今のバルサにどういった問題があるのかという組織論の見地から検証しなければならないはずだ。
組織の腐敗に対して何ができるかという見方を持った人々が現れなければならない。
例えば旧日本軍や大本営は組織的な問題があり、それが敗戦の要因ともなっている。現代の日本のメディアは具体的な検証を怠りひたすら「悲惨な戦争だった」と情緒的に煽り立てるが、そこに本質的な変化は数十年経った今も見られない。
構造的な腐敗をいち早く洗い出し改善しなければ組織は崩壊していくという事例は歴史の様々な局面において見つけることができる。
企業や軍、学校、国家、そういった組織には必ず腐敗が訪れるサイクルがやってくる。その崩壊の序章にいち早く気付き始めなければいずれ取り返しのつかないことになる。
それはスポーツクラブとて例外ではない。
このネイマールの退団はかつてACミランからズラタン・イブラヒモビッチやチアゴ・シウバが去って行ったときのようなケースと酷似している。
「ハインリッヒの法則」というのはとある不具合に対して300の要因が存在するということを意味している。
今回のネイマール退団は単なる一人の選手が移籍するという事を意味するだけでなく時代の移り変わり、栄枯盛衰を象徴しているのではないか。
ネイマールがバルセロナに移籍して来て後にMSNというサッカー史に残るようなトリデンテが形成されペップバルサ時代のポゼッションスタイルからの移行に成功した。ティト・ビラノバが成し遂げようとした新スタイルへの転向をルイス・エンリケは引き継ぎ再びバルサの時代を再生した。
かつてトータルフットボールの概念を持ちより「ドリームチーム」と呼ばれるフットボールにおける革新的イノベーションを成し遂げたのがヨハン・クライフだった。
今のバルセロナはそういった「革新」を怠り、育成組織を意味するカンテラではなく財布や鞄という意味合いを持つカルテラで解決しようとするクラブになっているのではないか。
「我々には育成という哲学があり、白いチームのようにマネーゲームで解決することはしない」というスタンスをとっており実際にそれで成功していたバルセロナが時代が終わりを告げようとしている。
有力選手が退団し育成組織からの引き上げがなく、次なる選手の獲得にも難航しているという現状はまさにFCバルセロナが組織として腐敗し始めていることの予兆のように思えてならない。
旧日本軍は連戦連勝の初期においてその検証や分析を怠り第二次世界大戦においてアメリカ軍に敗戦することになる。
そして現代の日本もかつて経済大国だったという栄光にとらわれ現代の衰退から目を遠ざけ、新興国の追い上げに対抗できずにいる。
勝因に偶然はあるが敗因には必然しかないという考え方は古今東西の兵法に共通する。
なぜネイマール・ジュニオールが「出る喜び」を感じているのか、彼は本当に裏切り者なのか、そういったことの検証が望まれる。
バルサを"延命"させたネイマールが最終的になぜ去らなければらなくなったのか、その背景はブラジル人の気まぐれという曖昧な言葉では説明できないはずだ。
今のバルセロナは組織的に変貌しなければならない。
次なる革新を成し遂げ、哲学をもう一度見直さなければ現代フットボールのシーンから置き去りにされていくだろう。
「バルセロナはアンチフットボール」
残念だが今のバルサにはその言葉が似合う。